『Chants of Sennaar』レビュー: 大きくて小さい言葉の壁
『Chants of Sennaar』とは、Rundiscが開発したパズルアドベンチャーゲーム。
本作は旧約聖書「バベルの塔」に着想を得て開発されたそうだ。
また、イラスト調のグラフィックも特徴で、鮮やかな色づかいが魅力。
もし派手な色味が苦手でも、彩度を調整できるので安心だ。
本作は、PS5、PS4、Nintendo Switch、Xbox、PCでプレイ可能。私はPS版をプレイ。
本作がどんなゲームか、そして実際にプレイして感じた感想と各要素の評価をネタバレなしでレビュー。本作に似たゲームも紹介する。
画像はタップもしくはクリックすると拡大して見ることが出来ます。
あらすじStory
おはようございます
どこかに置かれた棺。
そこからヌッと現れたのが本作の主人公。
死から蘇ったのか、単に棺で寝る趣味があるのかなど、全く分からない。
主人公は顔が見えないほどローブをスッポリと被っており、ササッと歩き始める。
主人公は遺跡のようにも見える塔を歩いていく。他の人は見当たらない。
人類滅亡後に1人目覚めたとか、そんな感じ?
こんにちは!
しばらく歩いていてみると、人を発見!良かった、人類は滅亡していないようだ。
しかも、その人は親しげに話しかけてくれる。仲良く出来そうだ。
だけど、その、喋りかけてくれている内容が、1ミリたりとも分からないんですが!
ゲームの言語設定を間違えたわけではない。文字化けではない、バグでもない。
でも、セリフが記号だらけで全く分からない!
とりあえず「たぶん、こういう内容…か…な?」と、なんとなく分かってる風を装って交流してみることに。
謎の塔
そうして、主人公はひたすら塔を登っていく。
途中で会う人たちのセリフはやっぱり分からないし、看板に書かれている文字の意味も分からない。
辞書もないし、語学学校もない。
主人公は、自力で文字の意味を解読しつつ塔を進む。
なぜ塔を登るのか。主人公は一体何者なのか。
そもそも、全く異なる言葉を話す人々が混在するこの塔は一体何なのだろうか。
ゲームの特徴Features
謎解きの塔
本作は、各所で謎解きを攻略しながら進んでいく。
各エリアの行き来は自由で、バトル要素はない。
行ったり来たりしなければ解けないパズルもある。
操作は、調べたり、他の場所に移動する出入り口で決定ボタンを押すだけ。
カメラ操作は出来ないけれど、調べられる場所はハイライトさせて確認することが出来る。
また、特定の場所には壁に埋め込まれた装置のようなものがあり、その装置間でファストトラベルも可能。
文字の意味を推測して理解する
本作のメインは文字の意味を解明すること。
NPCのセリフや壁画などには記号のような文字が使われており、周囲の状況やNPCの状況を見て文字の意味を推測していく。
各文字はそれぞれ特定の単語を表している。文字=1文字ではなく、文字=1単語だ。
舞台である塔は幾つかのエリアに分かれており、エリアごとに兵士や牧師など住んでいる人の階級が異なる。
階級ごとに異なる言語を使っており、エリアが変わる度に一から解読しなければならない。
新しい文字が登場する度に、自分なりの推測をメモしておくことが出来て、一定数のまとまった文字が登場すると答え合わせが出来る。
主人公が持つメモに特定の動作や物の絵が描かれるので、それを表す文字を当てはめる。正解すれば、その文字の意味が確定してセリフなどが自動で翻訳されるようになる。
ステルスとアイテム
各所では、ほんのりステルスもある。
敵の視線を避けてタイミング良く進んだり、時にはわざと物音を鳴らしてスキを突く必要もある。
また、謎解きに使用するアイテムを拾うこともある。
使える場所は決まっているので、持ち物リストから選んで使うだけ。また、持ち物リスト上でアイテムをグルグル回して観察することもできる。
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各要素の評価と感想Rating
物語の面白さ
4.0
NPC達が使う言葉以上に謎なのが本作の物語。
何の説明もテキスト情報もなく始まり、ひたすら塔を進む。それのみ。
でも、道中で出会う人々には物語があり、同じ塔に住んでいるとは思えないほど階級によって全く異なる文化を築いている。
開発元が「バベルの塔」に着想を得ていると明かしている通り、言語の違いが本作の結末に繋がっていて、現実の世界にも通じるテーマが描かれている。
独特な神聖さのある雰囲気が漂っていて「あとは、ご想像にお任せします」的な雰囲気ゲーかと思いきや、ちゃんと真相が分かるし、その内容に「なるほど!」となった。
言語の違いは大問題につながる可能性もあるけれど、言葉さえ通じれば解決してしまうことも多い。
キャラクターの魅力
4.0
主人公にセリフはない。言葉が分からないので、そりゃそうだ。
知らない人から見れば、黙々と歩きまくる怪しいローブ野郎に見えるだろう。
一方で、NPC達は階級によって性格がはっきり異なる。
その違いは分かりやすく、実はこれが本作の物語の肝だ。
NPC同士も異なる階級に対して先入観を持っている。言葉が通じないせいで起こる誤解だ。
しかし、兵士たちは厳格で勇ましいけれど芸術を愛する一面があるなど、分かりやすい性格の裏に本音が隠れている。
こうした意外な一面は言葉を理解することで分かってくる。
各階級の違いが過不足なく描き分けられていて、本作のテーマを言葉ではなく感覚的に分からせてくれる舞台装置になっている。
言葉が分かることで、言葉では表現しにくいことを分からせる。上手い!
操作性
4.0
ほとんどは調べたり話しかけるだけ。操作は簡単だ。
一方で、各文字の意味を推測してメモする際は実際に文字を入力する。
私はPS版をコントローラーを使ってプレイしたけれど、キーボードで文字入力する方が圧倒的に楽だと思う。
ステルスやタイミング良く操作しなければならない場面も少しあるけれど、判定はざっくりしていて、タイミングにもかなり余裕があり、ポイント&クリックゲームの感覚で楽しめる。
難易度バランス
4.5
文字の意味を当てていくことになるけれど、徐々にすんなりとは分からなくなってきて、応用編もある。
ちゃんと少しずつ分かるけれど、しっかり悩める難しさと良い複雑さ。
また、そのヒントの出し方も様々で面白い。NPCの会話だけから推測したり、動作を見て推測するなど、文字の解読方法は一辺倒ではない。
各文字は名詞だけではなく動詞や否定を表す(英語でのnotにあたるもの)ものもあり、ここまで推測させるのはゲームとしては珍しい。
更に階級ごとに文法(主語と動詞の前後関係など)も異なっており、文字を使った謎解きもあり、単なる文字当てクイズではない。
言語を理解して実際に使う。プレイヤーの推理力と理解力が試されるゲームだ。
ちなみに、本作で使われている文法の大もとは欧米の言語(開発元はフランスのデベロッパー)なので、日本語の文法は忘れてプレイするのがおすすめ。
ゲームシステム
4.5
文字の意味を推測して、さらにその文字を使ってパズルを解き、物語を理解する。
この何段階にも積み重なった謎解きが本作の面白いところ。
まさに主人公が登っていく塔のように、理解を少しずつ積み重ねて攻略していく。
その分、一連の謎と言語が分かった時の達成感はひとしお。
場所によって文字の解読方法が異なり、それぞれ似通ってもおらず、新鮮さも損なわれない。
やっぱり相手が喋っている言葉の意味って自然と知りたくなるもんだ。で、意味が分かり始めると、壁画を見て「読める、読めるぞぉ!」、誰かに話しかけて「分かる、分かるぞぉ!」と楽しさが加速する。
この心理を上手く突いてくるので、一気に最初から最後までプレイしてしまった。
やりこみ要素
4.5
あちこち探索して調べる。これはやり込み要素であり、文字の解読に必須なのでゲーム攻略に直結している。
また、本作には真エンディングがあり、これを達成するのが最大のやり込み要素だ。
ファストトラベル出来る装置では、異なる階級同士の会話を通訳してあげることが出来る。
通訳は完全に応用編で、文字の意味だけでなく各階級の文法も把握していなければならない。
これが面白いし、それによって各階級にしっかりとした変化が起こるので、ぜひとも挑戦を!
グラフィック
4.5
バンドデシネのようなミニマルな線に鮮やかな配色が美しいイラスト調のグラフィック。エリアによって配色も変わる。
私にとって好みのスタイルなので、文字の意味を考えながらも、ぼーっと見惚れてしまうことが多かった。
不思議だけど落ち着いていて神聖さも漂う雰囲気が、ミニマルなアートスタイルによってより際立っている。
そして、本作のメインとなる文字たち。
どれもデザインがおしゃれで、象形文字のように意味を表したデザインになっていたり、階級によって文字のテイストが違ったり、一文字ずつ凝って作られていることが分かる。
サウンド
4.0
BGMは、神聖な雰囲気を感じる曲調が多い。
大体は静かな雰囲気だけど、謎が解けた時などにはしっかりとBGMが流れる。
文字の意味を考えて悩む時間でも、変にうるさく感じない心地いいBGMばかりだ。
総合評価Summary
4.0
物語の魅力
ゲームプレイの快適さ
ゲームとしての面白さ
芸術性
良いところ
考えがいのある良質な謎解きの連続
美しく芸術性の高いグラフィック
落ち着いていて神聖な雰囲気
残念なところ
ゲームパッドだと文字入力が面倒
オススメな人
推理するのが好き
雰囲気や物語を楽しみたい
言語習得が好き
オススメではない人
ヒント機能が欲しい
意味が分からないとやる気を失う
サクサク攻略したい
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Chants of Sennaar
大きくて小さい言葉の壁
記号のような文字を解読するだけでなく、それを使ってパズルや物語を理解する何段階にも積み重なった謎解きに悩むのが楽しいパズルアドベンチャーゲーム。 解読方法が様々あり、文法まで考える応用編も面白い。 ミニマルで美しいグラフィックも大きな魅力。
Chants of Sennaar
© 2022 Chants of Sennaar, a game developed by Rundisc and published by Focus Entertainment. Chants of Sennaar, Focus Entertainment, Rundisc and their respective logos are trademarks or registered trademarks. All other trademarks, registered trademarks or their logos belong to their respective owners. All rights reserved.
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